包丁の研ぎ方【天然砥石編】― 中砥から仕上げまでの手順を研師が解説

監修:杉本裕哉

包丁の切れ味は、刃そのものの質と同じくらい「どう研ぐか」で決まります。番手のある人造砥石と違い、天然砥石は硬さや当たりが一点ごとに異なり、研ぎながら砕ける砥泥(とでい)が仕上がりを左右します。このページでは、天然砥石を使った包丁の研ぎ方を、準備から仕上げ、使用後の手入れまで手順で解説します。初めての方でも失敗しにくい要点を、研師の視点でまとめました。

天然砥石は個体差が大きいため、ここで示す時間や角度はあくまで目安です。まずは一本の石の癖に慣れることを優先してください。使う石は研師が選んだ天然砥石の一覧から、用途と硬さで選べます。

用意するもの

家庭で包丁を研ぐなら、最低限そろえたいのは中砥(なかと)と仕上げ砥(しあげと)、そして砥石の平面を保つ面直しの道具です。

  • 中砥(なかと) ― 刃の形を整える基準になる砥石。天然なら対馬砥石青砥が中砥として使われます。
  • 仕上げ砥(しあげと) ― 中砥のあとに刃先を細かく整え、切れ味と刃持ちを高める砥石。天然の仕上げ砥は京都産が中心です。
  • 面直し用の道具 ― 面直し砥石やダイヤモンド砥石など。砥石は使うほど中央が凹むため、平面を戻すために使います。
  • 名倉・共名倉(とものくら) ― 砥石の表面をこすって砥泥を早く作るための小さな石。仕上げ砥と同じ質の共名倉があると相性が安定します。
  • 水・容器・タオル ― 砥石を浸す容器、下に敷く濡れタオルや滑り止め、拭き上げ用の乾いた布。

研ぎの手順

基本の流れは「砥石を整える → 中砥で形を作る → カエリを確認する → 仕上げ砥で整える」です。刃元から切っ先までを何区分かに分け、各区分を同じ要領で研いでいきます。

  1. 砥石を水に浸す:中砥は容器に沈め、気泡が出なくなるまで数分〜10分ほど浸します。天然の仕上げ砥は吸水が少ないものが多く、表面を湿らせる程度でよい場合もあります(石によって異なります)。
  2. 面直しで平面を出す:砥石の面が凹んでいると刃が均一に当たりません。研ぎ始めに面直しの道具で表面を平らに整えます。
  3. 砥泥(とでい)を作る:名倉や共名倉を砥石に軽くこすりつけ、表面に砥泥を出します。この泥が研磨の主役です。
  4. 角度を保って中砥で研ぐ:刃を砥石に一定の角度で当てます。一般的な家庭用の包丁で15度前後が目安です。押すときに軽く力をかけ、引くときは力を抜きます。刃元・中央・切っ先と区分して研ぎ進めます。
  5. カエリ(返り)を確認する:研いだ面の反対側を指の腹でそっとなで、ざらつき(めくれ)が刃全体に出ているかを確かめます。カエリが均一に出たら、その面は研げているサインです。
  6. 仕上げ砥で仕上げる:中砥から仕上げ砥に移り、同じ角度で軽く研ぎます。砥泥を活かし、撫でるように優しく動かすのがコツです。
  7. カエリを取る:刃の裏を砥石に軽く当てて返りを落とし、最後に表裏を数回ずつ軽く滑らせて刃先を整えます。
  8. 拭き上げ・乾燥:刃と砥石の水気と砥泥を拭き取り、どちらもよく乾かします。刃物は水分を残すと錆びの原因になります。

天然砥石ならではのコツ

人造砥石の「番手どおりに削る」感覚とは少し違い、天然砥石は砥泥と力加減で仕上がりが変わります。次の3点を意識すると、優しく鋭い刃に近づきます。

砥泥を活かす

天然砥石は研ぎながら粒子が砕けて細かくなり、砥泥そのものが刃を磨きます。泥を水で流しすぎず、適度に残して研ぐと、優しく鋭利な仕上がりになりやすいとされます。

力を抜く

押し付けすぎると角度が崩れ、刃先が丸くなりがちです。刃の重みと砥泥に仕事をさせるつもりで、軽く動かします。

返りの見極め

カエリが出ることは、刃先まで研げている合図です。部位ごとに全体を確認し、均一にカエリが出てから次の工程へ進みます。硬さや当たりは石ごとに違うので、同じ石でも手応えの変化を確かめながら進めてください。

使用後の手入れ

砥石は消耗品であり、使い方より「使ったあと」で寿命が変わります。

  • 面直し:使うたびに中央が少しずつ凹みます。次回に平面から始められるよう、研ぎ終わりか研ぎ始めに平面を確認します。面直しの詳しい手順は砥石のメンテナンス編で解説しています。
  • 乾燥:濡れたまま密閉すると割れやカビの原因になります。砥泥を軽く洗い流し、風通しのよい場所で自然乾燥させます。
  • 保管:直射日光、急激な乾燥、凍結は割れにつながります。温度変化の少ない場所で保管してください。

刃物ごとの砥石の合わせ方や硬さの選び方に迷ったら、天然砥石の選び方もあわせてご覧ください。

よくある質問

研ぐ前に砥石を水に浸すのはなぜ?

砥石が水を含むと表面が滑らかになり、摩擦熱と目詰まりを抑えられるためです。乾いたまま研ぐと刃や石を傷めやすくなります。中砥は気泡が出なくなるまで浸します。天然の仕上げ砥は吸水が少ないものが多く、表面を湿らせる程度でよい場合もあります。

研ぐ角度は何度が目安ですか?

一般的な家庭用の包丁で15度前後が目安です。片刃の和包丁や用途によって変わります。刃の背を硬貨2〜3枚分ほど持ち上げるとおおよそ15度が目安ですが、適した角度は刃の幅によって変わります。大切なのは角度そのものより、研ぎ終わるまで同じ角度を保つことです。

カエリ(返り)とは何ですか?

研いだ刃先の反対側に、金属が微細にめくれて出るもののことです。刃先まで研げた証拠で、刃全体に均一に出たら研ぎが進んだ目安になります。最後に仕上げ砥と裏押しで取り除きます。

包丁はどれくらいの頻度で研げばいいですか?

使用頻度と刃物によりますが、切れ味が落ちたと感じたタイミングが基本です。日常的に使う家庭用の包丁なら、月1〜2回を目安に、軽いタッチアップを挟むと切れ味が安定しやすくなります。

面直しは毎回必要ですか?

砥石は使うほど中央が凹むため、研ぎ始めに平面を確認し、凹んでいれば面直しする習慣が安全です。凹んだ面のまま研ぐと刃が均一に当たりません。頻度は使い方によりますが、平面を保つことが良い研ぎの土台になります。

研師が選んだ一点物を、入荷通知で受け取る

天然砥石は番手のない一点物で、同じ石は二つとありません。研師が目利きし、面直し・試し研ぎを済ませた石は、入荷ごとに数が限られます。気になる産地や硬さがあれば、入荷通知の登録で先行してご案内します。まずは天然砥石の一覧から、今ある石をご覧ください。

監修:杉本裕哉(研師・KUROGANE WORKS)/研師・工房について

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